取消し(民法121条)

民法総則

民法119条から126条までは、無効及び取消しについて定めています。
無効と取消しは、当事者がその法律行為によって達成しようとした法律効果の発生を阻止する制度です。
取消しとは、有効ではないものの、法的に無効とまで定めていない行為について、当事者の判断により効果の発生を阻止させる行為です。

取消しができる行為や追認できる行為など、その用語の定義をあいまいにしていると、問題を解いているときに頭が混乱してしまいます。
しかし、その要件・効果をしっかりと把握していれば、難しい解釈ではありません。

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取消しの要件・効果

取消しの効果の公式は以下の通りです

 取消権者(120条)による取消しの意思表示があったこと

= 初めから無効であったものとみなす

初めから無効であったものとみなす、という効果が重要です。
行政法を学んでいるとしばしば見かける撤回との違いは、取消しは法律行為に瑕疵がある場合に使うのに対し、撤回は行為そのものに瑕疵が無いという違いがあります。

例えば、540条に解除権行使の条文があり、同条2項で「解除権行使後は撤回できない」旨定めています。
1項の解除権の行使が、瑕疵のない意思表示により効力を生じた、ということを意味しており、その解除の効力を無効にすることはできないことを定めた条文です。

民法121条の公式

要件効果を、蛍光ペンを引きながら、条文から導き出してみます。
そもそも121条のタイトルで取消しの効果を定めており、条文前半はシンプルです。

121条(取消しの効果)(前半)
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす

公式にします。

 取消権者による取消しの意思表示(取り消された行為)があったこと

= 初めから無効であったものとみなす

無効であったものとみなす、いわゆるみなし規定です。

この条文の解釈で難しいところは、その後半の条文文言です。

121条(取消しの効果)(後半)
ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う

現に利益を受けている限度について、分かりやすく解説します。

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現に利益を受けている限度とは

現に利益を受けている限度は返還すべき利益の範囲によって定まります。
返還すべき利益の範囲は、条文では定められていないので判例を見てみます。
いずれも、現在の制限行為能力者を定める前の判例ですが、返還すべき利益の範囲の解釈としては比較的よく用いられる判例です。

現に利益を受けている限度の例として、以下を想定します。

未成年者に10万円のお金を貸して(金銭消費貸借契約を締結)それが法定代理人によって取り消された。契約が取り消された時点で、この未成年者がすでに9万円のお金を使ってしまっていて、手元には1万円しかない場合

判例に従って結論を言うと、生活費として9万円使っていた場合には、返還義務は10万円の返還義務を負うことになります。
根拠となる判例は以下の通りです。

判例(無能力者の事例)
受領した金員を他人に対する債務の弁済又は必要な生活費に支出したときは、現にその利益を受けているというべきである。(大判 昭和7年10月26日)

遊興費として9万円使っていた場合には、返還義務は1万円の返還義務を負う、ということになります。
根拠となる判例は以下の通りです。

判例(準禁治産者の事例)
賭博に浪費された利益は現存しないものである。(最判 昭和50年6月27日)

返還すべき利益の範囲

現に利益を受けている限度を返還するということは、受けた利益を金銭に例えると、契約が取り消される前までに得ていた利益よりも少ない金額を限度として返還する義務を負うということです。
 
取り消された行為の当事者が制限行為能力者であるという要件のもと、要件を満たす当事者は有利に、言ってみれば、実際の利益よりも返さなくてもいい場合があります。
 
 
そもそも、行為能力者同士の法律行為が取り消された場合、初めから無効であったものと見做されます(121条)。
取り消された行為によって、財産や労務によって利益を受けていた場合、これが取り消されると、初めから無効であったと見做されるので、法律上の原因なく利益を受けて他人に損失を及ぼしたと見做されます。

 
つまり、当初の契約が取り消されると、すでに受けていた財産や労務によって得た利益を返す義務が生じます(703条 不当利得の返還義務)。

ところが、当事者の一方が制限行為能力者の場合、現に利益をうけている限度で返還の義務を負うと、121条では定めています。

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意義・まとめ

取消しとは、有効ではないものの、法的に無効とまで定めていない行為について、当事者の判断により効果の発生を阻止させる行為です。
無効と比較して、無効を定める意義を把握すれば、契約そのものの効力を生じさせない理由などが分かります。

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